Arancione Fenice’s diary

趣味、いろいろ。日常、いろいろ。

コットンスーツ

コットンスーツほど洒落たスーツはない。

コットン素材のスーツは一般的ではない。なぜなのか?シワがよるし、色もウールのようなダークな深みはない。どことなくカジュアルな印象なので普通のビジネスには向きそうもない。でも昨今、ビジネススーツのカジュアル化とかノータイスタイルとか、IT系を中心に仕事の服装がカジュアル化している現場ではちらほらコットンスーツっぽいものを見かけることがあるが、大抵はラペルがあるだけの羽織もの程度のものでとてもじゃないがテイラードとは言えない代物。本格的な仕立てのコットンスーツを見かける機会はほとんどない。アパレルショップの店員さんくらいだ。

一般的ではない理由は実用性じゃないかと思っている。汚れやすく、クリーニングでも落ちにくい。はねた餃子のタレとか焼肉のたれ、ラーメンのスープ、首や袖の皮脂汚れなんかではウール素材よりも汚れやすく、またドライクリーニングでは落ちにくい。そしてクリーニングに出すと形が崩れる。仕立て職人さんが頑張ったアイロンワークが台無しになってしまう。洒落者なら贔屓の仕立て屋さんでオーダーして、クリーニング後は仕立て屋さんに持っていきアイロンをやり直してもらうのだろうと思う。そうした手間を金を惜しまない人のためのスーツなんだろう。

既製品がほとんど存在しないのだが、オーダースーツ屋さんに行くと春夏生地のサンプルバンチの中にコットン生地がある。スーツ用のコットン生地というのはかなり魅力的。同じコットンでもジーンズやチノパンとかの素材とは全然違う。織り方なんかもウールとは違うし、手触りも手の平に吸い付くような、ずっとスリスリしたくなるような感触に参ってしまう。

過去に2着だけ、コットンスーツを所有したことがある。一着はまだ手元にある。用途としては週末のオフにかしこまった場に出たり、やや高級なレストランでの食事などだ。結婚前後や子供の初参りや七五三などの家族イベントなんかではビジネススーツだと堅すぎるけどカジュアルすぎてはいけない生活シーンというのがある。そんなケースでの着用である。

一着はビームスFオリジナルのものでイタリアのグアベロ社のコットン生地を使ったアンコン仕立てのスーツ。色はネイビーで便利だった。一番着用したのは某エンタメ系の客先プロジェクトでの仕事着として。そこはお堅い服装禁止と言われていたのでコットンスーツの上着をジャケットとしてチノパンやジーンズに合わせていた。だんだんドライクリーニングでは落ちない汚れがつくようになり、長持ちせずに廃棄。日常的に着用したのは実質的には2シーズンくらいだっただろうか。肌触りはめちゃくちゃ良かった。

もう一着はTOMORROWLANDオリジナルのベージュ。かっこよくて洒落ている。最近では、と言っても去年の春だがちょっと洒落た海辺のレストランに家族で出掛けた時に着用した気がする。2005年くらいにセールで購入したのだが、サンプルか何かなのかレギュラーでは売ってなくてセールの時に一着だけ売ってたもの。一見同じように見えるが副資材の使い方が他のオリジナルスーツ(薄い芯だけを使ったアンコン風が当時の主流)とは違っていて薄めのパッドが入ってる。この頃のTOMORROWLANDオリジナルのスーツは既製品の中では最もアームホールが細いパターンになっていて腕の可動域が広くてお気に入りでした。その後はアームホールがやや大きめなパターンに変わったような記憶があるが、今はどうなのかはわからない。

過去に一度、初夏の季節にスイスへ行ったことがある。ジュネーブチューリッヒでは昼間の気温が30度くらいまで上がるのに空気が乾燥しているから涼しくて汗をかかないのだ。そんな環境ならコットンスーツも使いやすいだろうけど、日本のジメジメした春夏はコットンスーツは向かないな。

またコットンスーツを買ったり仕立てる機会はあるだろうか?億万長者になったら別だが、もうないだろう。コットンはどうしても実用性で劣るのでコスパが悪い。用途にあった生地を選んでウールでジャケットを仕立てると思う。

それでもあのコットン生地の色味と感触は永遠の憧れだ。

この鋭角的なラペルが気に入っているが、所々に小さなシミや汚れが付いてきたのでもう長くは持たないだろう。